「大脱走」製作40周年記念特別編と銘打たれたDVDが先年、20世紀フォックスより発売された。
「大脱走」は吹替ファンにとってはおそらく最重要作品のひとつである。この映画がこれほど多くの映画ファンの
指示を持続して得ているのは、公開時の評判もさることながら、71年10月のフジテレビ「ゴールデン洋画劇場」で
の初放映によるところが大きい。筆者と同世代の業界関係者にもこの作品のファンは多いが、いずれも劇場ではな
く、この吹替版を観てハマった口である。元の作品の出来が良かったのはいうまでもないが、一見豪華に見える出
演者たちは、公開時はまだ映画スターとしては知る人ぞ知るというくらいの知名度。彼らがそれぞれ一枚看板にな
ったころのオンエアというタイミングも良かったし、当時のフジが予告スポット等で大宣伝攻勢をかけたのも当た
った。そして何より、吹替版そのものの出来も素晴らしかったのである。この放映で吹替マニアになってしまった
者も少なくない。出演者も多く、前後編に分けての放送ということで、収録も夜を徹して明け方までかかったそう
だ。
この「大脱走」でスティーヴ・マックイーンを吹き替えているのが宮部昭夫さん。同じフジのテレビシリーズ
「拳銃無宿」(59年)で若きマックイーンを担当して以来のおつきあいだ。明るいポール・ニューマンと、どこか暗
いマックイーンはよく比較されたけれども、どんな役をやっていても常に孤独感を漂わせているマックイーンに、
宮部さんのお声はとてもよく合っていた。
そのマックイーンを内海賢二さんが担当している「日曜洋画劇場」では、カーク・ダグラスを、ほぼ完全フィッ
クス。うかつにも筆者は子供のころ、ダグラスとマックイーンが同じ方だとはなかなか気づかなかった。伺ったと
ころ、それほど声を変えてらっしゃるわけではないようで、このへんが吹替の不思議で面白いところである。ダグ
ラスの声には威厳を、マックイーンには微かな臆病さを感じるのだ。
このインタビューは「パピヨン」のDVD発売の際に行なったものである。DVDの日本語音声は、公開時に作った劇
場用吹替版が入っているもの、DVD用に新録したもの、そして「大脱走」や「パピヨン」のように過去のテレビ音
源を収録したものがある。テレビ版の収録は、フィックス声優の全盛時の声の保存という点では大いに意味があり、
筆者のようなマニアには喜ばれるのだが、単純に日本語音声を求める向きには、カットが多いという欠点もある
(カット部分は字幕表示される)。「大脱走」は、初放映時はせっかくほぼノーカットの収録だったのに、その後
のカットありの再放送による使いまわしで、おそらくマザーの吹替音源がズタズタにされてしまっている。当時の
状況ではそれが当たり前だったのかもしれないが、名作・宮部版「大脱走」ぐらいは編集用コピーを作って完全版
を保存しておいてほしかった。
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