「荒野の七人」の切れ味


双葉十三郎氏 〜 「映画の学校」 〜


開巻、クレディット・タイトルが終るころから管楽器が入る主題曲につれて、メキシコの寒村が映りはじめ るところではやくもジョン・スタアジェスなるかなと、大いにうれしくなった。みごとな構図である。 一人か二人の人物を、わずかに仰角のカメラの前において、奥行を生かしたタテの構図である。 茶色の土を背景に、白いメキシコの土民服を着た農夫たちの配置とその動きの、一ショットごとの細心の構 図である。この作品の魅力を決定する最初の因子は、このようなスタアジェスの感覚とチャールズ・ラング ・ジュニアのみごとなショットである。
物語は、あらためて述べるまでもないであろう。黒沢明作品をそのまま巧みにメキシコの寒村に移したもの で、タイトルに、東宝映画「七人の侍」にもとづく、とハッキリ書かれているのは愉快である。
発端につづいて、国境の小さな町。このシイクェンスは用心棒さがしに村を出た三人が馬で入ってくるとこ ろからはじまるが、町が丘の斜面にたっているので、きわめて効果的な画面をつくりだしている。 ここにユル・ブリンナアのクリスが登場、インディアンの棺を坂の上の墓地へ運んでいく役目を買って出る。 スティーヴ・マクィーンのヴィンが一緒に馬車に乗る。 ここが大きな見せ場の一つであるが、クリスのとなりに乗ったヴィンが、ショット・ガンに左手で弾丸をつ めるとき、一つずつちょっとふってみてからつめるのは芸がこまかい。 スティーヴ・マクィーンは七人のなかで最も西部男らしく最もイカス 存在だが、このショット・ガンのつめかたをはじめ、各所に魅力を発揮している。
丘の墓地へのぼる途中窓からねらったやつに一発お見舞いして牽制するサスペンスは、「ガンヒルの決闘」 のクライマックスの駅へいく馬車のサスペンスと相通じているが、クリスとヴィンは、お互いに、どこから 流れてきたか語り合う。その短い会話で、もうダッジ・シティもトゥムストンも治安が確立されて、拳銃稼 業ではメシが食えない時代になっていることがわかる。うまい運びである。
町の人たちはどうなることかと馬車のあとをついてくるが、その先頭に、若い流れ者、タイトルをみると” Introducing”となっているので、これが最初のハリウッド出演になるらしいホルスト・ブフホ ルツのチコである。
馬車の上からの主観で、丘の上の門に向かって近づいていくと、五人の男が、ずらりとならんでたちふさが る構図。インディアンなんか白人の墓地に葬られてたまるかというわけだが、機先を制したクリスの早射ち 二発。二人の男が腕をうたれて、やむなく棺を通す。ブリンナアは黒づくめで沈着なガンマンぶり。拳銃を いちど裏がえしてホルスタアにおさめるのが特色である。
だいたい、この映画は派手な射ち合いほかに、こまかい動きに西部劇ファンがよろこぶような工夫をこらし ている。そこが大きな魅力で、クリスが宿屋の一室にいると、三人のメキシコ人がドアをたたく。クリスは ベッドにおいたホルスタアから、いつでも拳銃がぬけるようしておいて、入れという。といった場面なども その一例だが、絶対に評判になると思われるのは、寒村行きのガンマン募集に応じて訪れたチコをテストす る場面。まず両手をひろげ、相撲みたいに、パチンとカシワ手をうつ間に、腰なる拳銃をぬくのである。 いわれたとおり、チコがカシワ手をうとうとすると、その両の手のひらの間には、眼にもとまらぬ早さで抜 かれたクリスの拳銃がはさまっている。今度はお前がやってみろと、クリスがカシワ手をうつが、全然スキ がなくて、チコは抜けない。
ドアの使い方も面白い。チコはなんの警戒もなしに入ってくる。若造だから仕方ない。が、悪賢い旧友のハ リイ(ブラッド・デキスタア)は、ドアをたたいただけで入ってこない。クリスが出てみると、ドアの外の よこに身をよせている。ヴィンは酒場へくるが、ドアをあけて入って、ちょっと立ちどまって観察してから、 店の奥へすすむ。このヴィンとクリスが、あとのサムライたちを集めにまわるのだが、宿屋へかえると、友 達が部屋で待っているという。その部屋の前まできて、クリスが左がわからドアに近づき、ヴィンがななめ 右のうしろにひかえ、それからドアをあける。万が一、部屋の中から射ってこられたときを考えての態勢で ある。
この友達リイをロバート・ヴォーンが演じているのは面白い。伊達なバクチ打ちスタイルで、すごい殺し屋 なのだが、いまでは自分の影におびえている。七人のガンマンと七人のサムライをくらべると、三船敏郎と 木村功をブフホルツにまとめてしまったので、一人あまる。その一人に、リイという人物を創作したわけで、 後半、彼がテーブルの上にいるハエを、左手でさっとつかみ、たった一匹なのをみて、むかしは三匹だった のに、と自嘲するあたりも、なかなかよろしい。脚本を書いたウォルター・ニューマンは、ハシでハエをつ かむ宮本武蔵の話を読んだことがあるのかもしれない。
宮口精二ならぬジェームズ・コバーンが腕前をみせるところは日本の剣豪物そっくりで、拳銃対ナイフ、相 手は空カンを、こっちは柱をねらって勝負するが、ほとんど同時にみえ、相手はオレが勝ったと主張する。 コバーンのブリットはそしらぬ顔。相手はいきりたって真剣勝負をいどむ。が、拳銃に手がかかったと思っ た瞬間、はやくもブリットの手をはなれたナイフに胸をつらぬかれていた、という次第。
子供扱いにされたブフホルツが泥酔して酒場にあらわれ、ブリンナアにからむ場面は、ながい割にあまり盛 りあがらない。が、出発した六人のあとを、ブフホルツがしつこく追っていく道中の場面は、おだやかな情 味があって微笑ましい。
かくて、いよいよ舞台はメキシコの寒村にもどる。この寒村に立つ教会の鐘楼が、大きな役割を演じる。 開巻、エリ・ウォラックの匪賊カルベラが襲ってきた場面で、この鐘楼が注意をひくようにしてあるが、一 同が村に着いたのに村民たちが出迎えないので気まずくなっていると、いきなり鐘楼の鐘が鳴りだす。 誰がならした、とさわぎたてると、犯人はブフホルツ。集まってきた村人たちに大演説をブッて、サムライ たちを微笑ませ、晴れて仲間に加えてもらう。そして、後に、この鐘楼は、カルベラの来襲にそなえる望楼 の役割を与えられ、みごとな構図の要素にもなるのである。
内容からいうと、この作品は「七人の侍」と主題は同じだが、ずっと重味がなくなって、剣豪小説的な色彩 がつよく、アクションが豊富、スタアジェスならではの切れ味のいい展開をみせているが、さて、カルベラ 来襲のシイクェンス。お祭りの最中、子供が三人の斥候がやってきたことをしらせる。クリスが六人に命令 を下すのだが、このときの七人の動きのとらえかたが面白い。台詞で命令をするのはブリットにだけ、あと は無言の耳うちと以心伝心で、村人たちに気づかれぬように、しずかにうごいて部署につく。それを追うカ メラがいいのである。
ブリットとチコは三人の斥候をつかまえにいく。リイもいく。が、馬が三頭いるだけ、ブリットはすわりこ んで花をつみ、のんきにながめている。すこしはなれたところに伏せたチコが、感心しているうしろへ、三 人の斥候があらわれる。間髪を容れぬ射ち合いで二人はたおされ、一人は馬で逃げていく。ブリットは拳銃 をかまえる。ここがたいへんイカスところで、彼は片手でなく、両手でしっかりと拳銃をかまえ、慎重にね らいを定めて引金をひくのである。このブリットは、最後の乱戦でもそうだが、まっすぐに立って射つ。そ こになんともいえない味とリアリティがある。なお、待機しているスティーヴ・マ クィーンが、のんびりしているようにみえながら、手をちゃんとホルスタアに近づけて遊ばせている のはさすがである。
ついにカルベラは村へ侵入する。ここの音楽は太鼓だけですばらしい効果である。ブリンナア以下三名が、 屋根の下で待ちうけ、ずいと日なたへ出てくるショットもじつにいい。談判は決裂、たちまち射ち合いとな るや、電光石火、数名の敵をなぎたおし、さっと身をひるがえして、物かげへとび込み、おいてあった鉄砲 をつかんで射ちまくる、という描写の気分のよさには、思わずやりやがった、とさけびたくなる。この乱射 戦のみごとなさばきは、クライマクスの逆襲戦についてもいえる。建物と広場の位置関係が、ちょっとわか りにくいところがあるが、七人がすごいスピードで走りまわり射ちまくるショット、つまりはげしく動いて いるショットをつみ重ね、つなぎ合わせるみごとさは、まさに圧巻で、ジョン・フォードといえども、これ だけめまぐるしい乱戦をあざやかに処理したことはない。若さと感覚の相違であろう。
このクライマクスでは、マクィーンがベルトの背中に補充の拳銃を一挺さし こんでいるのが面白く、ホルスタアのさきが切ってあって、そこから拳銃のさきがぐっと出ているのも興味 をそそる。とびこえながら射つというテも痛快。最初の匪賊来襲のときは、自分だけ壁にひっついて闘わな かったロバート・ヴォーンが、家の中に村人と匪賊が一緒にいると知り、手にした拳銃を一度ホルスタアに おさめ、パッと部屋へとびこんで眼にもとまらぬ早業のぬきうちに、三人ほどの匪賊をうちたおしてしまう ところもあざやかで、ハエが一匹しかつかめなくなったと嘆く彼が、命をかけての早抜きをためしてみたか った気持ちがよくわかる。そのあと、いきなりうたれ、拳銃をはなし、くるりとまわってかべにぶつかり、 そのままくずれおち、祈るようなかたちにひざまずいて息たえるシーンもいい。最も他愛なく射たれてしま うのはデキスタアだが、オレイリイのチャールズ・ブロンソンは子供をかばって射たれ、メキシコ名前を名 乗って死んでいき、ブリットは得意のナイフをなげようとして息たえ、ナイフは日乾し煉瓦につきささる、 といったふうに、それぞれの最後にも趣向がこらしてある。
などと、よろこんで書いているうちに約束の枚数が尽きて、七人のガンマンの品定めをする余白がなくなっ た。誰がいちばん強いかはみなさんにきめていただこう。

〜 73年 晶文社 刊 〜





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